こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。
年齢を重ねるにつれて、職場の責任は重くなり、家庭や地域の役割は増える一方。
気が付いたら周りからの頼まれごとで手一杯、なんてことはありませんか?
気乗りしないお誘いや自分のキャパを超えそうな仕事なのに、
頼まれると「あ、大丈夫です」「はい、やります」と口をついて出てしまう・・・
「今回は断ろう!」と頭の中でシミュレーションまでしていたのに、
いざその場面になると頭は真っ白。
いつものクセでつい引き受けてしまう・・・
勇気を振りしぼって断ったとしても、
「冷たい人だって思われたかな?」「怒らせたかな?」とその後罪悪感に襲われて、何日も引きずってしまう・・・
「自分と他人の間の健康的な境界線(バウンダリー)を引くことが大事」
「お互いを尊重するために、アサーティブ(対等で誠実な自己主張)に伝えることが大切」
ネットの記事や心理学の本を見れば、そんなアドバイスがあふれていますよね。
頭では「そんなことわかっている」と思っていても、
いざとなると言えずに、断ると苦しくなるものです。
もしあなたが、そんな自分に嫌気がさして、「断れない私がダメなんだろうなぁ」と滅入っていたら、
今回の記事は今までとは違う視点から自分を見つめるヒントになるはずです。
この記事では、頭でわかっていてもなぜ境界線が引けないのか、その理由を「身体」と「心」の2つの視点からひも解いて、
強固なブレーキ(抵抗)を緩めるためのステップをお伝えしますね。
身体は「キケン!」と叫んでいる?!
あなたが頼まれごとを断ろうとするとき、
「身体」はどんなサインを出しているでしょうか?
今までそんなこと、意識なんてしたことはないかもしれません。
でも、注意深く意識してみると、実にたくさんのサインを出しているのです。
「喉がキュッと詰まるような感じがして、言葉が出にくくなる」
「相手の顔を見た瞬間に、動悸がして、思考がフリーズする」
こういう反応はあなたの心が弱いから起きているのではなく、
自律神経の防衛反応なのです。
今起きている出来事に対して、あなたの身体が「キケン!」と叫んでいる、
そんな状態です。
人間にとって、太古の昔から「集団から嫌われること」「孤立すること」は、
そのまま「死」を意味していました。
頼まれごとを断るということは、相手との間に境界線をひいて、気まずくなるリスクを負うことになります。
そのため、身体は「命の危機」と同じレベルの恐怖として処理してしまいます。

あなたの自律神経は・・・
・交感神経の闘争・逃走モードになり、心臓がバクバクして、冷や汗が出て、
「早くこの気まずい場面から逃げ出したい!」という焦りから、つい引き受けてしまう。
・背側迷走神経のフリーズモードになり、喉が詰まり、頭は真っ白。
声が出なくなって、自分の意見を麻痺させてしまう。
どんなに頭で「ちゃんと自己主張しよう!」とアクセルを踏んでいても、
身体の方は「そんなことしたら危険だ!」と、フリーズという急ブレーキを踏み込んでいる状態なのです。
こんなことが起きていたら、どんなに伝え方のスキルを学んでも、いざという場面で境界線が引けないのは不思議ではありません。
大ゲンカする心の中のパーツたち
次は、「内的家族システム療法(IFS)」という心理療法を通して、この問題を「心」の面から見てみましょう。
この療法によると、私たちの心の中にはたくさんのパーツがいます。
心の中には・・・
「ちゃんと断りたい」と思っている、大人のパーツがいる。
だけど・・・
「嫌われたら大変なことになる、いい子でいなくちゃ!」と焦る、防衛パーツ「も」いる。
やっとの思いで断った後に、何とも言えない罪悪感を抱えてしまうのは、
あなたの心の中でパーツたちが戦って、葛藤を起こしているせいなのです。
あなたは子どもの頃、親や学校などの環境で、
「自分の意見を言うと怒られたり、不機嫌な態度をとられたりした」
「我慢したら、ほめられた」
という経験をたくさんしてきたのではないでしょうか?
そんな環境の中で子どもが見捨てられずに生きていくためには、
「自分の欲求を抑えて、相手の期待に応える」ことが生き残るための戦略になっていきます。

大人のあなたは、もう自分の力で生きられるし、
少しくらい誰かを断っても見捨てられないことも知っています。
だけど、あなたが子どもの頃から一緒にいる防衛パーツは、「当時の幼い感覚」のまま、
あなたの心の中で時を止めているのです。
防衛パーツは、あなたが勇気を出して断ると、
「嫌われて見捨てられてしまう!」とパニックに陥るのです。
「怒らせたかな?」「私って冷たい人間かも」という、後味の悪さは、
防衛パーツによるものなのです。
大人のあなた自身が断ることで今の生活を守ろうとするのと同じように、
防衛パーツも見捨てられる恐怖からあなたを必死に守ろうとしているのです。
断り方のスキルの前に知っておきたい「抵抗」への対策
このように、身体のフリーズ反応や、心の中の防衛パーツが抵抗している状態では、
「上手な断り方のテンプレート」のようなコミュニケーションスキルを使おうとしても、うまくいきません。
まずは、「自分の気持ちを伝えよう」とするときに、
邪魔してくる「抵抗」そのものに対して、対策を立てていく必要があります。
家を建てるときにまず地盤を固めていくように、境界線を引くためには土台が必要です。
では、そのアプローチを見ていきましょう。
「どうして言えないんだろう・・・」と責める自分を観察する
「また言えなかった」
「どうしていつもこうなんだろう」
と自分をジャッジする声が聞こえてきたら、一旦止まってみましょう。
いつもなら自分を責めるネガティブ思考のループがグルグル回りだすところを、
「あぁ、私の身体が、私を守るためにフリーズしてくれたんだなぁ」
「心の中の防衛パーツが、必死に安全を確保しようとしてくれたんだなぁ」と、
眺めてみてください。
「抵抗」を直すべき悪いもの(敵)として扱うと、防衛パーツはさらに警戒を強めて、
頑固にブレーキを踏むようになります。
「守ってくれてありがとう」という姿勢を持つことが、ブレーキを緩める第一歩です。
身体の「ちょっとした違和感」に気付く
いざ、断る場面がやってきたとき、断った後の罪悪感に襲われているとき、
あなたの身体には特有の違和感(不快感)が現れているはずです。
・喉が「キュッ」と締め付けられるような感覚
・胸のあたりに「もやもや」が広がる感覚
・顔が「ピクピク」ひきつるような感覚
その感覚に気付いたら、頭であれこれ考えるのを一度止めてみます。
そして、違和感のある場所にそっと手を当てて、呼吸をしてみましょう。

身体の感覚をジャッジせず、ただ気付いてあげること。
違和感をそのまま、否定せずに感じてあげること。
そうすることで、過緊張状態だった自律神経のモードが、少しずつ「安心・安全のモード」へと落ち着きを取り戻しはじめます。
「防衛パーツ」と距離を置いてみる
断った後、頭の中で「あの言い方は冷たかったかな・・・」「怒ってないかな・・・」と
グルグル思考が止まらなくなったら、
それはあなたの意識が、焦っている「防衛パーツ」にハイジャックされている証拠です。
このとき、その不安を紙に書き出してみたり、心の中で次のように話しかけてみてはどうでしょう。
「教えてくれてありがとう。私が嫌われないように、必死に心配してくれているんだね。
でも大丈夫。私はもう大人だから、これくらいで私の価値は変わらないよ。
ちょっと落ち着くまで、私のとなりで見守っていてね。」

暴走する「防衛パーツ」をあなた自身から切り離して、
「少し離れたところから客観的に眺める(=外在化)」ことで、
罪悪感の波は収まりやすくなります。
あなたを支配する罪悪感は、あなた自身ではなく、
あなたの中の「防衛パーツ」の焦りだと気付くだけでも、後味の悪さは軽くなっていくのです。
長年の神経系のパターンは書き換えられる?!
自分をすり減らさないように健康的な境界線を引いて、
断った後の罪悪感を手放していくプロセスは、一朝一夕にできるものではありません。
なぜなら、それは人生の長い時間をかけて、自分を守るための生存戦略として、
神経系に深く刻み込まれているためです。
これまであなたを守ってくれた戦略だからこそ、急に変えようとすると「抵抗」が起きるのは、自然なことなのです。
大切なのは、パターン化された身体の仕組みに気付いて、「緩んでも大丈夫!」と身体と心が感じられる分だけの安心感を少しずつ広げていくこと。
長い年月をかけてできあがったものだから、
ブレーキが緩まるのにも同じだけの長い時間がかかるんじゃないかと、
あなたは気が遠くなるかもしれません。
でも、大人のあなたには、子どもの頃にはまだ身についていなかった知恵や洞察力などが今は備わっています。
それらの力を使って取り組んでいけば、あなたが思うよりも長い道のりではなくなるのです。

まとめ
相手との間に「境界線を引く」ことは、頭で理解するのは簡単でも、
実際に行動に移すのはとても難しいものです。
長い時間を費やして身についた生存戦略だからこそ、
「簡単に変われない自分」をどうか責めないでくださいね。
今あなたが、境界線を引くことができなくても大丈夫です。
まずは、あなたの「身体」と「心」が発するサインに丁寧に耳を傾け、
「守ってくれていたんだな」と気付いてあげること。
あなた自身が、自分の一番の理解者であり続けることで、
古くなった生存戦略を手放せる日がいつかきっと来ます。
ただ、長年染みついた強固なブレーキを、たった一人で緩めていくのは、
時に大きな不安や抵抗を伴うことがあります。
ブレーキを緩めていくためのプロセスにおいて、専門的なガイドが必要だと感じられたときは、お気軽にご相談ください。
この記事が、あなたが自分を責める手を緩めて、自分を守るための小さな一歩になれば嬉しいです。
<参考文献>
浅井咲子(2021):不安・イライラがスッと消え去る「安心のタネ」の育て方 -ポリヴェーガル理論の第一人者が教える47のコツ-.大和出版.
リチャード・C・シュワルツ(2024): 「悪い私」はいない -内的家族システムモデル(IFS)による全体性の回復-.日本能率協会マネジメントセンタ-.