こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。
「朝仕事に行こうとすると、吐き気がするんです」
「苦手な同僚と話さなければならないとき、緊張して胸が押しつぶされそうになります」
「休みの日も、仕事のことが頭から離れなくて・・・」
カウンセリングでは、こんな切実なお悩みを聞くことは珍しくありません。
というか、クライエントさんのほとんどが何かしら不安を抱えているのではないでしょうか?
心理士という仕事柄、大勢の人の前で話すことがよくある私。
皮肉なことに、不安やストレスについて研修をする私がめちゃくちゃ緊張して、「逃げ出したい!」と思ったことは一度や二度ではありません(笑)
クライエントさんも、心理士も、多くの人が抱える不安。
どう向き合ったらいいのでしょうか?
この記事では、不安から解放されるために「持っておきたい視点」や「知っておきたいコツ」についてお伝えしますね。
不安はなくすべきもの?!
30代女性のAさんは「いつなんどき不安に襲われるか分からない」という不安から、通勤用のバッグにはいつも抗不安薬を常備。
職場の机の引き出しにも常備。
車のダッシュボードにも常備。
張りつめた毎日が終わってようやく週末になり、ゆったり気分でガーデニングを楽しんでいると、過去の嫌な出来事や将来の不安に頭をハイジャックされてゆっくり過ごすこともままならない。
「不安にならないため」が生活の中心になったり、休日にも影響が出るのは困りものですよね。
本当はストレスフリーで充実した日々を過ごしたいのに・・・
いつしか不安が敵に見えてきて、「不安さえなければ」と思うようになってしまった。
では、不安って「なくすべきもの」なのでしょうか?
不安の発生源はどこ?
ケガをしたら痛い。
だけど痛みを感じるからこそ、「ケガをしないように」と次から慎重になりますよね。
だとすると、痛みには私たちを守る役割があると言えます。
もしかしたら不安にも痛みと同じように何か役割があるのでは?
もし不安が私たちにとって役に立たないものならば、進化の過程で失われてもいいはず。
脳科学から見た「不安」とは、どんなものなんでしょうか?
不安を感じているときって、心臓は「どきどき」や「ばくばく」。
これと言って特定できないような不安の場合は、胸が「ざわざわ」するかもしれません。
手足はというと、「そわそわ」してじっとしていられない。
こんな風に不安は身体の感覚として現れることが多いけれど、その発生源は脳の中にある「扁桃体」というアーモンドサイズの小さな器官。
扁桃体は周囲に「危険」を察知すると、「たたかうか・にげるか」の反応で私たちを行動へと突き動かします。
もし扁桃体に言葉があってしゃべることができるとしたら、それは「生き延びろ!」であって、「幸せになってね」ではないのです。
火災警報器としての扁桃体
そうは言っても、どこに行くにも不安で、生きているのもつらくて「死にたいくらい」毎日が不安だったら、逆に生存率は下がるような気がするのですが・・・
なんだか矛盾してますよね?
火災警報器が出火発生時にアラームを鳴らして私たちを火事から守ってくれるように、扁桃体も危険を察知すると交感神経を総動員して身の安全へと動かします。
でもアラームって、本当の火事ではないときにも誤って鳴ってしまいますよね。
同じように扁桃体もいつも正確に危険を察知するわけではないのです。
扁桃体からすると、たった一度の危険を見逃して命を失うくらいなら、100回間違ってでもアラームを鳴らして身を守るための行動を起こさせたいのです。
「そこまで過剰に反応しなくてもいいのに」とあなたは思うかもしれない。
ただ、かなり進化したように見える現代人の脳は、その実、紀元前に狩猟採集民だった頃とほとんど変わっていないようです。
「喰うか喰われるか」レベルで生きていた狩猟採集民の脳とたいして変わらないからこそ、「本当の危険」だけでなく、「危険の可能性」があることにまで反応するのが扁桃体なのです。
過剰に反応してしまう扁桃体。
でも、自律神経のはたらきを活用して不安を落ち着かせることは不可能ではありません。
人前で話すときなどに私も実践している、緊張や不安な場面での対処法を3つご紹介しますね。
不安の対処法:心ここにあらずのとき
不安な時って、あなたの意識はどこにありますか?
変えようのない過去のこと?
どうなるか分からない未来?
きっと、あなたの意識は「現在」にはなくて、心ここにあらずの状態だと思うのです。
そんなときに「オリエンティング」はどうでしょう?
「オリエンティング」とは定位反応とも言って、方向づけのことを意味します。
たとえば、アフリカのサバンナでライオンから逃げまどう鹿。
広い範囲を見わたせるように顔の横側についている目で周囲を見ながら疾走し、自分の「現在地」をすばやく確認して安全な逃げ道を探します。
私たちも「現在地」を確認することで、ホッと安心感を覚えるかもしれません。
今あなたが室内にいるならば、天井部分の4つの隅に視線をゆっくりと移して「今、私はここにいるんだなぁ」と心の中でつぶやいてみてもいいですね。
不安の対処法:地に足がつかないとき
なんだか落ち着かなかったり、そわそわして浮足立っている状態を表す言葉に「地に足がつかない」という言い方がありますよね。
そんなときには「グラウンディング」です。
「グラウンド」とは土地、土台、地面などの意味。
これに「ing」がついて「グラウンディング」です。
「地に足がつかない」ときは、つま先の方に重心があって、かかとはいつでも動けるように少し浮き気味ですよね。
そこで、腰幅に両足を開いて立って、次につま先だけで立ってみます。
バランスが取れたら、音を立てずにかかとをゆっくりと下ろします。
そして、足の裏全体が地面につく感覚を味わってみましょう。
始める前よりも少し地に足がついたことに気付くはず。
不安の対処法:息が苦しいとき
不安による息苦しさは、病院受診するほどの強い不安を抱える人に多い身体反応の一つ。
「死んでしまうのではないか」と思うくらいの息苦しさがあるために、「もっと息を吸わなければ」と吸う息の方に意識が向いてしまいます。
心身を落ち着かせたい時に「深呼吸をしましょう!」とよく言われますが、ただ呼吸をすればいいというわけではありません。
吸う息は「たたかうか・にげるか」モードの交感神経を、吐く息はリラックスモードの副交感神経を刺激するので、呼吸をするときは吸う息よりも吐く息を2秒くらい長めにするのがコツです。
たとえば、4秒かけて吸ったら、6秒かけてなが~く息を吐くと落ち着きやすくなります。
まとめ
紫外線対策でもない限り、雨が降っていないときは傘をさす必要はありません。
でも、日常生活が制限されてしまうくらい不安が高い人は、天気がよくても傘が手放せないような毎日を送っていることが多いのです。
確かに、いつ降られてもいいようにいつも傘をさしていれば雨に濡れることはありません。
でも傘で視界がさえぎられると、頭上に広がる青空や、道路脇に咲いている花には気付けないと思うのです。
そんな人が必要なときだけ傘をさして、お天気がいいときは手ぶら気分で出かけられたらいいな・・・
見えてなかったものが見える豊かさを感じてほしいな・・・
そんな思いで、この記事を書きました。
あなたの身体の内側から安心感を育てるためのヒントになったら嬉しいです。
<参考文献>
アンデシュ・ハンセン(2022):ストレス脳.新潮新書.