こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。
今までいろんな所で、いろんなクライエントさんと会ってきて、いつの頃からかあることに気付くようになりました。
それは老若男女問わずクライエントさんには「いい人」が圧倒的に多いってこと。
細かく統計をとっているわけではありません。
でも普段の生活で会う友人、知人、同僚、家族などと比べてみても、クライエントさんは「いい人」率がかなり高いのです。
ここであえてカッコ付で「いい人」と書くのは、当のクライエントさんは「いい人」でいることは決して「本当の自分」ではないと感じているからです。
むしろ「いい人」をやめたいけれど、なかなかできずに困っています。
この記事では、「いい人」が抱えやすいつらさ、「断れないつらさ」と「断るつらさ」についてお伝えしますね。
「断れないつらさ」の代償は大きい
「いい人」は一朝一夕にしてできあがるのではなく、「いい子」から始まっています。
特に日本には自分を出さず周りのために貢献して、耐え忍ぶことを美徳とする文化が根強くあるので、「いい子」が「いい人」に育ちやすい環境ともいえますよね。
クライエントさんは、学校や職場、住んでいる地域などで、小さい頃から自分よりも他者のニーズを満たすことにエネルギーを注いで、本当は断りたい頼みごとでも引き受けてきたんだなと、その歴史の長さに驚きます。
友だちの愚痴を延々と聞かされて、ドッと疲れて帰宅する
死にたいくらいつらくても「大丈夫?」と聞かれると、「大丈夫!」とつい言ってしまう
誰よりも早く出勤して、休みの日も家に持ち帰って仕事をこなそうとする
「いい人」がしみついてしまうと、抑えてきた「本当の自分」が心の中で収まり処が見つからなくなって、ついにはいろんな形で大きな代償を払う羽目になるというストーリーが共通してあるようです。
「いい人」のツケはどう現れる?
「いい人」のツケはどんな風に現れるのでしょうか?
ひとつずつ見てみましょう。
身体面に現れるパターン
不眠、過食、拒食、頭痛、腹痛など。
やり場のなさは自律神経系にまで影響を及ぼして身体に向かいます。
でも病院で検査を受けてみると「異常なし」と言われることは珍しくありません。
精神面に現れるパターン
自分を必要以上に責める、ネガティブ思考にはまる、自分の殻に閉じこもる、気分の落ち込みなど。
行き場のなさが自分に向かっていくのはとてもつらい・・・
だけど他人から責められたり、攻撃される前に自分で自分を攻撃して感じる痛みの方がまだ「まし」なのかもしれません。
致命的な傷つきにならないように、自分を守るのに必死なのです。
行動面に現れるパターン
買い物依存、アルコール依存、他者への暴言や暴力など。
他人や外に向いてしまうとき、「気持ちをコントロールできないから」とか、「意志が弱いから」と自分のせいにしがち。
でも、マグマがたまった火山は爆発してはじめて抜け道ができるように、「いい人」の胸の奥底に封印されてきた悲しみ、つらさ、苦しさ、不安も出口を探しています。
「本当の自分」からのメッセージ?!
さまざまな面に出現するパターンは一般的には「症状」と見なされて、本人もまわりの人も「あってはならないもの」と扱ってしまいます。
でも、今まで無理な生き方をしてきた結果のツケならば、「排除すべきもの」ではなくて、「生き方そのものを見直してほしい」という「本当の自分」からのメッセージなのかもしれません。
「断るつらさ」の理由
「いい子」の時は気付けなくても、「いい人」になった今なら「断れない」ツケを払うことになるのは、自分だってことくらい充分すぎるくらい分かっています。
ならば勇気を出して断ればいいと思うかもしれないけれど、「いい人」は「断れないつらさ」以上に「断るつらさ」を抱えているために躊躇してしまうのです。
「できる」と「できない」の判断ミス?!
多くの人は誰かに頼みごとをされた時、まず自分に「できそうかどうか」と判断するものです。
でも、「いい人」には「できない」という選択肢が存在しないかのように、相手の要求に応えてしまいます。
「頑張れば」「努力すれば」「我慢すれば」と自分のできる質や量を極限まで上げて対応しようとするけれど、「できない」のに「できる」と判断ミスをしているともいえます。
「できない」と言いたくない
判断ミスも経験するうちには「しまったなっ」と学んで次から修正してもよさそうなものですが、それでもやっぱり「できない」と言わないのが「いい人」。
そこにはどうも「できない」と言いたくない気持ちが潜んでいるようです。
「断った時の相手の反応が怖い」
「がっかりされるんじゃないか」
「冷たい人と思われたらどうしよう」
こんな声が頭の中を駆け巡るのは・・・
断れないつらさの代償をのちのち自分が払うことになっても、自分の評価や信用が下がって失望されるつらさにはもっと耐えられないから。
「いい人」でいることで、人から嫌われずに重宝されることを学んできたせいで、「いい人」を手放せなくなっています。
上野千鶴子さんの姿勢に学ぶ:練習の大切さ
「日本で一番論争に強い女」と呼ばれたことがあるフェミニストの上野千鶴子さん。
私の住む熊本で講演会が開催されると知り、早速出かけてきました。
壇上にいる上野さんは歯に衣着せぬ物言いで、「こんなに言いたいことを言えたなら、どんなに気持ちがいいだろう!」と尊敬と羨望の眼差しでただ眺めるばかりの私。
ところが、あとで知ったのは、上野さんは何度も差別発言を受けて、うまく言い返せずに嫌というほど悔しい思いをたくさんしてきたということ。
それからというもの、どんな批判にも対抗できるようにと「こう来たら、これで返そう」といろんなパターンを想定して、場数を踏んで言い返せるようになったというではありませんか!
「上野さんだから、できるんだ」と思っていたけれど、練習を重ねたからこその「上野千鶴子さん」だったのです。
もちろん上野さんのように論破はできなくても、「いい人」だって「こんなふうに断ってみたい」というイメージを持って実践する姿勢は真似できるのではないでしょうか。
「断る」に慣れる3つの方法
「断る方法」と言っても、負担が低いものから高いものまでいろいろ。
ここでは3つ見てみましょう。
誰かの力を借りる
病院に通っているなら「主治医の先生に一度相談してから」とか、「担当のカウンセラーに無理しないようにと言われている」など、その道の専門家の力を借りるのは効果的。
他にも家族の力を借りるのもありですよね。
「いい人」にとって自分を優先させることは、馴染みがなくて違和感があるかもしれないけれど、断る理由は本当のことでなくてもいいのです。
スマホを活用する
もう帰りたいのに、友だちの長い話につきあわされていたら、スマホの画面にちらっと目をやり「あっ、家族から用事頼まれてた!」と急に思い出すふりをする。
一旦引き受けた仕事をあとで断りたくなったら、「用事があるのを忘れていました。すみません」とあとでLINEメッセージを送ってみる。
リアルタイムで断れなくても、あとで断ってもいいし、一旦受け入れたことでも撤回してもいいのです。
スマホは言いにくいことを伝えるにはもってこいのツールです。
とっさのフレーズをイメージトレーニング
とはいえ、いくら方法を知ったとしても、実践するのは何倍も難しいもの。
だって、断りたい場面は突然やって来るし、慣れていないから動揺してしまうのです。
そこで大事なのは、とっさのフレーズに備えて事前にイメージトレーニングしておくこと。
1)断りたいと思うのはどんな場面か具体的にイメージする
2)断るのにどんなフレーズだったら、抵抗感が少ないか自分の胸に聞いてみる
3)断るフレーズを3つくらい用意しておく
4)誰かに相手になってもらって練習する、もしくは頭の中でリハーサルする
イメージトレーニングをした後は、実際の場面に出くわすのを待つだけです。
最初のうちはしどろもどろになるかもしれないけれど、少しずつ練習が身に付くにつれて自然にできるようになる日が来るはず。
まとめ
カナダに住んでいた留学生の頃。
いろんな国からの留学生がいる中で、カナダ人の間では「部屋を貸すなら日本人に限る」と言われているのを知ったとき、なんとも複雑な気持ちになりました。
彼らにとって日本人は礼儀正しく、金払いがよくて、大人しい「いい人」らしいのですが、それって「都合のいい人」に過ぎないんじゃないかと思ったものです。
当時は私も「いい人」扱いをされて悔し涙を流したこともあったけれど、逆境に遭うごとに雑草魂が育ってしまいました。
日本で暮らしている今、そんな根性が必要になる場面なんて昔ほどありません。
でも、「いい人」に会うとなんだか放っておけない気持ちになるのは、そんな自分の経験のせいかもしれません。
だから願うのです、少しでも「いい人」に楽になってほしいなと。
<参考文献>
上野千鶴子(2024):こんな世の中に誰がした?-ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために-.光文社.
増井武士(2001):職場の心の処方箋.誠信書房.