治りたい?治してほしい?|カウンセリングにおける自然治癒力とは?

こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。

春になるとぽかぽか陽気が心地よくて、日光過敏症にもかかわらず「ちょっとくらいなら」と歩いて出かけたら、1週間後にはポツポツと身体中に湿疹が現れてしまいました。

3月の紫外線量は5月より多いって聞いたことがあるけれど、あれは本当ですね。
肌はしっかり紫外線を感知しています。

久しぶりに皮膚科に行って毎日欠かさず丁寧なボディケアをスタートすると、悪化の一途をたどっていた症状はおさまり、切り傷のようにパックリ開いた皮膚もふさがってきました。

「人の身体ってすごい!治ろうとしているんだな」と、我が身をもって自然治癒力のすごさに感動。

ふと、これってカウンセリングにも言えることだなと思ったのです。

悩みを抱えるクライエントさん。
一人では解決の糸口がなかなか見つからなくて、カウンセラーのドアを叩く。

もうそれ自体が「治りたい」気持ちの現れでもあるけれど、ではカウンセリングにおける自然治癒力ってどういうことなんでしょう?

この記事では、自然治癒力とカウンセリングの関係についてお伝えしますね。

自然治癒力が発揮されるには○○が必要

自然治癒力とは、人が生まれながらにして持っている、ケガや病気を治す自然の力。

そんな力があるなら、ケガや病気になっても放っておいてもいいんじゃない?と思うかもしれないけれど、自然治癒力が発揮されるにはその力が動きやすくなる条件が必要です。

たとえば、日光過敏症の場合。
処方薬でアレルギー反応や炎症が抑えられても、薬が効くような工夫を怠っていては治るものも治りません。

さぼっていた日焼け対策や保湿ケアを念入りにしつつ、ドライサウナもしばらくお休みにして、詰め込みがちなスケジュールをゆるゆるにしてみると、一ヶ月経ってようやく回復の兆しが見えてきました。

自然治癒力が発揮される環境を整えるから、薬との相乗効果で回復していくんですね。

「治してほしい」クライエントさん

人に自然治癒力が備わっているならば、身体と同じように心にも「よくなりたい」という思いがあるはずで、カウンセリングはこの「よくなりたい」気持ちを扱う場とも言えます。

でも駆け出しの頃は、よく分かっていなかった・・・

クライエントさんに対して「本当によくなりたいと思っている?」と疑ってしまい、相手の奥底にある気持ちを汲み取れないことが多々ありました。

思い出すのは、クライエントのAさん。
Aさんはうつ病と不安症を長く患う40代の女性。

私が提案した宿題は忘れずにしてきてくれるし、睡眠日誌は定規で引いたようにきっちり揃った文字で書き込まれています。
予約の時間だって遅れることもなく、時間も守ってくれます。

でも、信頼関係ができているとはなかなか思えなくて、「何かが違う」といつも違和感を覚えていました。

その違和感をあえて言葉にするならば

「あなたが言った通りに宿題をやってきたし、ちゃんとカウンセリングにも来ましたよ」
「これで治るんですか?治るなら続けます」
と突きつけられているような感じでした。

いつの間にか無言のプレッシャーを感じるようになって、「治さなければ」という思考に陥っていきました。

「治りたい」より「治してほしい」

いろんな○○療法を学んでは試してはみたものの、Aさんのうつ症状も不安も改善しないまま、最後は「私ではお役に立てると思えません」と限界を伝えて、カウンセリングにピリオドを打ったのです。

当時のAさんからは「治りたい」気落ちは充分伝わってきました。
ただそれは、「治してほしい」というニュアンスに近くて主体性があまり感じられない。

もしかしたら・・・

カウンセリングなんて意味がないと思っていたんじゃないのか?
よくなっている自分がイメージできなかったんじゃないのか?

そして

カウンセラーである私はそういう気持ちに寄り添えていなかったんじゃないのか?

いろんな疑問を残してくれたクライエントさんでした。

カウンセリングにおける主体性とは?

今になれば分かるのです。

こんな結末になったのはAさんに合う○○療法が見つけられなかったからではなく、主体性とも言える自然治癒力を引き出せなかったからだと。

マッサージやヘアカットであれば、利用者はサービスを受けるために施術者に身を委ねます。

「ここが痛いから、ほぐしてほしい」とか「こんなイメージで髪を切ってください」など要望を伝えれば、あとは受け身でいられるし、それでいい世界。

カウンセリングにおいてもクライエントさんは同じような期待を抱いていることが案外多い。
カウンセラーが悩みを解決して、不安を取り除いてくれるものだと。

でも、本来は悩みを解決していくのはクライエントさん自身であり、カウンセラーはクライエントさんの自然治癒力が動き出す条件を整えていくことが役目。

クライエントさんの代わりに悩みを解決することはできないのです。

それはたとえるなら、植物のタネ。
タネは自分の力だけで芽を出したり、花を咲かせることはできないけれど、日光、水、温度、土など、「ちょうどいい条件」が揃えば、芽を出して伸びたい方向へとしなやかに成長していきます。

直射日光がダメなら日陰に置いたり

乾燥を好むなら水をやりすぎないようにする

寒暖差に弱いなら室内で育てるという風に

タネが持つ可能性を最大限に引き出すように、カウンセラーはクライエントさんに合わせて「ちょうどいい条件」を試行錯誤しながら探していくのです。

自然治癒力を阻むもの

Aさんのように、「治してほしい?」と思うクライエントさんに出会うと、よくなる方へと向かう力が何かによって阻まれているんだろうなぁと思うようになりました。

植物だったら、日の当たる場所に移したり、枯れた花殻を摘み取ったりして、阻んでいるものを取り除くことができるけれど、人の心はもっと複雑。

では何をする?

どんなことがクライエントさんの「よくなりたい」気持ちを邪魔しているのか?と想像を働かせるところから始まります。

するといろんなパターンがあることに気付いていくんですね。

「どうなりたいですか?」とカウンセラーに聞かれても、現状が変わるとは到底思えなくて「こうなりたいイメージ」がわかないのかもしれない。

「自由に話してもいいですよ」と言われても、現実生活で自分の意見や考えを否定されることが普通なら、表現するのは危険なこととして映っているかもしれない。

「宿題」という言葉から連想するイメージが悪すぎて、カウンセラーから出される宿題に抵抗が起きているのかもしれない。

過去に何人もカウンセラーと会ってきても「何も変わらなかった」という体験をしていたら、ここには諦めの境地で来たのかもしれない。

こういう可能性に一つひとつ触れてクライエントさんと紐解いていくと、「本当はよくなりたいんだな」と思う瞬間に遭遇します。

それこそが「人には自然治癒力がある」と私が確信する瞬間でもあり、カウンセリングの醍醐味の一つかもしれません。

まとめ

新緑がまぶしい季節になると自宅のベランダにも花がほしくなって、ガーデンセンターへ出かけると店頭には色鮮やかな花の苗がお出迎え。

でも、目指すは店内奥の「おつとめ品」コーナー。

枯れた花や葉が摘み取られていない苗
ちょっと黄色く弱っている葉っぱ

でもよく見ると、小さい芽が顔を出しているし、茎だって太くてまだまだしっかりしている。

値段が下がっていることも買う決め手の一つにはなるけれど、それ以上に「うちの家でどこまで元気になれるかな?」と好奇心にも似た気持ちが出てきてつい手が伸びてしまう。

『生きとし生けるものには自然治癒力がある』

植物たちからも教えられている毎日なのです。

<参考文献>
増井武士(2001):職場の心の処方箋.誠信書房.

上田 富美子(うえだ ふみこ)

心理学の知識やスキルを日々の生活で活かして、心も身体も健康になって、人生を豊かにしたい人のためにブログを書いています。

臨床心理士・公認心理師・SEP(ソマティック・エクスペリエンス・プラクティショナー)

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