「身体の声を聴く」って、どういうこと?|ソマティックなセルフケア

こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。

「身体の声を聴く」

普段見たり聞いたりして、なんとなく分かるようで分からないこの言葉。

聴診器で心臓音が聞こえるみたいに、身体に耳をかざすと声が聞こえるわけではないですよね。
私もはじめは「ん?」って感じで、ピンときませんでした。

この記事では、「身体の感覚に気付かない理由」「なぜ大事?」「ソマティックなセルフケア」などについてお伝えしますね。

身体の感覚に気付かない理由

「身体の声を聴く」とは、別の言い方をすると身体の感覚に意識を向けること。
でも、言うは易く行うは難し。
その難しさには理由があります。

何も感じない or 不快な感覚

身体の感覚に意識を向けてみても、「何も感じない」というのはよくあること。

何か感じたとしても、「ざわざわ」「もやもや」「むかむか」など、あまり感じたくない感覚が出てきて、必ずしも「いい心地」とは限りません。

実は、安心感が土台にあると不快な感覚は時間の経過とともに収まります。
とはいえ、私たちは嫌なものは遠ざけたいので、なるべく感じないようにするのが普通になっています。

思考で処理するクセ

人は進化の過程で言語を司る大脳新皮質が発達したため、他の動物にはない「言葉」を使えるようになりました。

そのおかげで生活はこの上なく便利になったものの、本能に近い感情や感覚より、思考で処理するのが当たり前になっています。

たとえば「嫌だったこと」や「納得いかないこと」に対しても、「こういうものだから」と割り切ろうとしたり、「考えても仕方ない」と頭の中から追い出そうとします。

誰かに相談しても「もういいじゃない。忘れたら?」と言われて、いつまでも考えている自分が悪いように思えてくる。
最後には思考にさえギュッとフタをして閉じ込めてしまう。

ソマティック・アプローチとの出会い

以前私はどちらかというと思考重視だったのですが、目からうろこの体験をしてからというもの、感覚も大切にするようになりました。

その体験とは、ソマティック・エクスペリエンス®(SE)という名の「心と身体をつなぐ」アプローチ。

ソマティック(somatic)は身体的、エクスペリエンス(experience)は体験という意味。

SEのトレーニングでは、参加者もクライエント体験をするのが必須で、「自分の身をもって学ぶこと」が徹底されています。

ある日のトレーニングのこと。
衝突事故に遭ったときのことをテーマにセッションを受けることに。

雨の帰宅ラッシュ時に車を運転していると、右側前方の隣のレーンには単車に乗ったおじさんの姿。

おじさんの前の車が急ブレーキをかけると、続けておじさんも急ブレーキをかけ、ドミノ倒しのように単車ごと私の車になだれ込む。

ハンドルを切ろうにも左側は路肩。
よけられずにいると、単車と一体化したおじさんは車のドアミラーにぶつかり事故発生。

大事には至らなかったものの、おじさんと私の過失割合は9対1と判定され、1割分の修理費を私が負担する羽目に。
車が停止していない限り、過失割合はゼロにはならない。
頭では分かっても、ぶつけられた私がなぜ出費しなければならないのか?

セラピストに誘導されて、この場面を再体験していくと、胸元に霧のような「モヤっ」とする感覚がわきあがる。
つぎに「モヤっ」はしだいに喉に上昇していく。

「今、どんな感じがしますか?」
セラピストの穏やかな声に沿って、さらに探っていくと、喉の詰まる感じに気がつく。
ふっと、頭に言葉が浮かぶ。

その言葉はまるで人格をもっているかのように、私の喉から出たがっている。
そして、声に出して言ってみた。

「私は悪くない」

頭に浮かんだ言葉を言って、聞いて、さっきまでの詰まり感がスッと軽くなるのを感じる。

事故そのものは4,5年も前のことなのに、身体の中ではまったく過去になっていなかった。
納得のいかなさをずっと抱えながら私は生きていたんだ・・・

雄弁に語ってくれる身体の声に耳を傾けて寄り添ったら、それまでのわだかまりは小さな霧の粒子とともに散って、未完了の文章に「。」の句点がつく感覚になった。

過去は変えられないとは言うけれど、過去の捉え方は変わることを身体で感じた体験でした。

なぜ内受容感覚に働きかけるのか?

なぜ、身体の声を聴くと、過去のわだかまりや未消化の感情が解消されるのでしょうか?

これには、私たちの身体の成り立ちが深く関係しています。
身体には五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)がありますが、これは「外受容感覚」と呼ばれるもの。
いわゆる身体の表面や外側部分で起こる感覚です。

一方で、内臓など身体の内側で起こる感覚は「内受容感覚」。
内臓は自律神経によってコントロールされているので、意思の力で動かせるものではなく、自律神経の中にある「迷走神経」の影響を大きく受けます。

クモの糸のように身体中に張り巡らされている迷走神経。
この神経では内臓の感覚が脳に伝わる情報量は80%に対して、脳から内臓に伝わる情報量はたったの20%。

たとえば、不安なときにいくら頭で「大丈夫」と言い聞かせても、その声は20%しか届かない。

なので、残り80%の身体の内側の感覚に働きかけて、神経系のレベルから安心・安全を感じられるように身体を調整することが大事なのです。

ソマティックなセルフケア

いくら身体の感覚に意識を向けることが大事と分かっても、最初はなじみがなかったり、分かりにくかったりします。

セラピーではセラピストのガイドによって感覚に気付きやすくなりますが、セラピストがいないとソマティックなケアができないわけではありません。

ここでは日常生活の中でもできるソマティックなセルフケアを2つご紹介します。

自然にふれる

自然にふれるのはとても気持ちいいもの。
実際、自然のなかにいるだけでもストレスホルモンの軽減効果はあります。

人は鳥や虫が出す高周波の音を「聞こえた」と意識的には認識できませんが、身体感覚で察知した振動によって安心を覚えるとも言われています。

動物とあそぶ

ネコやイヌ、ハムスターなどの動物が眠っている姿を見るのは、それだけで癒されそうですよね。
すやすやと眠っているそばにいると、周りには危険がなく「ここは安全である」と神経レベルで感じられます。

動物をなでたときの暖かく柔らかい手ざわりも、触覚を通じて人の「自分」というアイデンティティに関係する脳の部分を刺激して深い安心感を与えてくれます。

このように、私たち人間は自然や動物から多くの恩恵を受けながら生かされています。

まとめ

身体の声を聴いて、心と身体をつないでいく。
思考を使いすぎている現代だからこそ、身体を意識しながら生活することが心身の健康につながります。

“The heart has its reasons which reason does not know.
We know the truth not only by the reason, but by the heart.”
「心には理性では分からない理由がある。
私たちは理性だけでなく、心で真実を知る。」

自然哲学者でもあったパスカルが残したこの言葉は、ソマティック・アプローチにも通じると思うのです。
あなたの内なる声に耳を澄ませてみたら、きっとたくさんのことを語ってくれることでしょう。

<参考文献>
浅井咲子(2021):「安心のタネ」の育て方.大和出版.
花丘ちぐさ(2020):その生きづらさ、発達性トラウマ?.春秋社.

上田 富美子(うえだ ふみこ)

心理学の知識やスキルを日々の生活で活かして、心も身体も健康になって、人生を豊かにしたい人のためにブログを書いています。

臨床心理士・公認心理師・SEP(ソマティック・エクスペリエンス・プラクティショナー)

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