こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。
人生100年時代と言われるようになって久しくなりましたね。
江戸時代だったらとっくの昔に寿命がきて、生きていないはずの私も、令和ではまだまだ人生の折り返し地点。
どうせ生きるなら、健康寿命を少しでも伸ばしたい。
健康のためにはネガティブなことは言わない方がいいって、なんとなく分かっていてもつい言ってしまう。
でも、その一言が自律神経レベルで心身に影響を及ぼしているとしたら、ちょっと怖くありませんか?
この記事では、普段使う言葉がどのように健康に影響しているのか?についてお伝えしますね。
そもそも自律神経系って、なに?
「自律神経が乱れている」とか、「自律神経が整っている」ってよく言うけど、自律神経って何のこと?
自律神経系とはその名の通り、「自律して動く」神経のこと。
たとえば、私たちは心臓を「動かそう」と思って動かしているわけではなく、自律神経系が動かしています。
夜寝ているとき呼吸ができるのも、大事な試験を受けるときに緊張して心臓がバクバクするのも、自律神経系が働いているためです。
自律神経系には、「交感神経」と「副交感神経」という2つの神経があります。
交感神経は車のアクセルの役割で、副交感神経はブレーキとリラックスの役割。
この2つの神経はシーソーのような関係で、一日を通じてどちらかが優位になって、波のように上がったり下がったりを繰り返すのが通常運転の状態です。
ところが、交感神経が刺激されっぱなしで興奮状態がつづいたり、副交感神経が過剰に働くと疲れが取れず身体が動かなくなったりします。いわゆる「自律神経が乱れている」状態。
一方で、朝はシャキッと目が覚めて、夜になると自然と眠くなるのは、交感神経と副交感神経が適切に働いているから。
「自律神経が整っている」とは、この状態ですね。
交感神経は「たたかう」・「にげる」の神経
交感神経も副交感神経も自分の身を守るために働きますが、交感神経は「たたかうか?」「にげるか?」の反応で対処します。
差し迫った危機に対してすぐに動けるように、筋肉に血液を送り込むために心臓は活発になって、脈拍も速くなり身体は興奮状態になります。
たとえば、車に轢かれそうになったときパッとよけることができるのは、身体が瞬時に「危険!」と認識できるためです。
危険を回避する反応は動物に本来備わったもので、生き延びるための方策です。
「危機回避」の言葉
ただ、困ったことに生存率を少しでも高めるはずの危機回避能力が、問題になるときがあります。
危険が過ぎ去った後も身体は「危険!」と認識したままだったり、危険がもう存在しないにもかかわらず、「まだある!」と誤って認識する場合です。
トラウマを抱えている人にとってこの感覚はとてもなじみ深いものですが、トラウマ体験がない人でも決して無関係ではありません。
意外にも私たちが日常使う言葉は、「危険!」という感覚を作り出しています。
たとえば・・・
「仕事ができない奴と評価されたくないから、頼まれたことは断らずにする」
「つきあいが悪いと思われたくないから、誘われた飲み会に行く」
「お金で困りたくないから、貯金をする」
これらに共通しているのは・・・
「~したくないから、○○をする」という危険や痛みを回避したい考え方によって発せられる言葉ということ。
「二重否定」の言葉
「危機回避」の言葉とは言い方こそ違いますが、同じように私たちに悪影響を及ぼすのは「二重否定の言葉」。
「~しなければならない」や「止めてはいけない」など、否定の言葉を重ねる言い回しです。
精神科医の神田橋條治先生によると、「これは脅迫の雰囲気であり、発する方の心身にも、受け取る側の心身にも有害」とのこと。
このことを知った時に「そうだろうな」という納得とともに、「わぁ、結構使っているかも?」と身が締まる思いがしました。
「考え方のクセ」と自律神経系の関係
身体は危機を認識すると対処するために興奮状態になると先に触れましたが、このとき脳内では危機に対処しようとホルモンが分泌されます。
このホルモンが出るとどうなるのでしょうか?
『本当の自分に出会えば、病気は消えていく』の著者、梯谷幸司氏は、危機回避状態になりやすいかどうかは「その人の『自分の内部で使う言葉』と『そこから発生する脳の動かし方のクセ』が大きく影響する」と言います。
「脳の動かし方のクセ」とは、「苦痛系思考」と「報酬系思考」の2つ。
苦痛系思考とは?
「不安、恐れ、嫌悪、怒りといったネガティブな感情を生じさせる事態に遭遇するのを避けるため」という基準で脳を動かすパターン。
「~したくないから、○○する」というのは、ずばりこのパターンですね。
脳ではコルチゾールやテストステロン、ノルアドレナリンなどのホルモンが分泌されます。
コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、過剰に分泌されると不眠になることも。
また、男性ホルモンの代表格であるテストステロンや、交感神経の働きを活発にするノルアドレナリンは「たたかうか?」「にげるか?」で対処しますが、過剰になると身体は興奮状態が続きます。
苦痛系思考がクセになっていると、実際にはそんなに危険ではないときでも、これらのホルモンが分泌されて、病気になりやすいというのです。
報酬系思考とは?
一方、報酬系思考は「~を得たい」という思いが第一にあって、それに突き動かされて、さまざまな決断や判断をするという脳の動かし方をするパターン。
たとえば・・・
「仕事をスムーズにしたいから、困っている同僚の相談にのる」
「いい関係を築きたいから、誘われた飲み会に行く」
「お金を得て豊かな生活をしたいから、貯金をする」
報酬系思考の場合、脳内で分泌されるのはドーパミンやセロトニン、オキシトシンなど。
ドーパミンは「やる気ホルモン」「快楽ホルモン」とも呼ばれ、私たちを意欲的にしてくれます。
「幸せホルモン」のセロトニンは、気持ちを元気にしてくれます。
また、授乳中のお母さんに多く分泌される「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、苦痛系思考が発動しそうなとき、ブレーキをかける働きまでするのです。
報酬系思考ではこうしたホルモンが分泌されやすく、結果的に病気になりにくい身体になるというのは納得できますよね。
「苦痛系思考」だった留学時代
人が口にする言葉には、その人が持つ「考え方のクセ」が反映されるってことは理解できます。
でもまさか自律神経系に影響しているとは、驚きです。
思い起こせば、留学時代の私は「苦痛系思考」がほぼいつもON状態。
「支払いができなくなると困るから、バイトをする」
「クラスでプレゼンしたくないから、授業をさぼる」
「単位を落としたくないから、寝る時間を削って勉強する」
当時はいつも何かに追われる感じがしていて、「早く学生を終わらせたい」が口癖でした。
それもそのはず。
自分が使う言葉が「苦痛系思考」を誘発して、交感神経が優位になり「たたかうか?」「にげるか?」の反応になっていたのです。
置かれた状況や環境は変えられないけれど、使う言葉は選べるし、そうしていたらもっと楽になれていたかも?
今ならそう思うし、今だからそう思うのかもしれません。
まとめ
無意識に口に出す言葉。
心の中でつぶやく言葉。
どんな言葉を使うかで「苦痛系思考」になるか、「報酬系思考」になるかに分かれて、その影響は自律神経系にまで及びます。
自律神経系の働きを自分の意志でコントロールすることはできないけれど、「どんな言葉を使うか」は自分の意志で選択できそう。
まずは、「苦痛系思考」になっている自分に気付くところからなら始められるかも。
<参考文献>
浅井咲子(2021):「安心のタネ」の育て方.大和出版.
神田橋條治(2019):心身養生のコツ.岩崎学術出版社.
梯谷幸司(2018):本当の自分に出会えば、病気は消えていく.三笠書房.