こんにちは。カウンセリングオフィスボイスのうえだふみこです。
小学生の頃、宿題を出さない先生が担任だったことがあります。
先生は保護者にも「子どもに『勉強しろ』と言わないでください」と、ことあるごとに言っていました。
不思議なことに、この先生が担任だった3年間は毎日欠かさず勉強したものでした。
どうしてそうなるかって?
先生は子どものやる気を引き出す工夫をたくさんしていたのです。
おかげで勉強嫌いにはならなかったけれど・・・
中学、そして高校では宿題が出るのが当たり前になると、宿題嫌いになってしまいました。
そんな私ですが、心理士になった今はクライエントさんに宿題を出すようになりました。
この記事では、私が宿題を出すようになった背景や理由、カウンセリングを効果的にするヒントについてお伝えしますね。
カウンセリングの捉え方の違い
宿題についてお話する前に、ちょっと共有したいことがあります。
普段から「なんか違うなぁ」と漠然と感じることに、カウンセリングの捉え方にはどうもクライエントとカウンセラーの間で微妙なズレがあるということ。
「カウンセリングを受ける」と言うように、カウンセリングはどこか受動的なニュアンスを帯びていますよね。
クライエントさんが持つカウンセリングのイメージは、きっとリラクゼーションマッサージや美容エステに近いんだろうなって思うことが結構あります。
身一つで訪れて、施術者が癒しを提供するみたいなイメージですね。
実は私は大学院に入ってすぐの頃は、そんなイメージを持っていました。
ただ経験を重ねていくとクライエントとカウンセラーは受動と能動の関係ではなくて、二人三脚で作り上げる協働作業の関係だなと思うようになりました。
たとえるなら、マラソンランナーとコーチのような関係。
コーチはランナーの代わりに走ることはできないけれど、走り続けるランナーをサポートしながらゴールへと導いていく。
主役はランナーで、コーチは脇役。
こんなイメージを持っているカウンセラーと、カウンセリングに癒しのイメージを持っているクライエントが出会うと、かみ合わなくなるのも想像できますよね。
そのズレがはっきり現れるのが宿題なんです。
宿題をすることになるとは思っていなかったクライエントさんに、お願いしてもなかなか取り組んでもらえなかったり、続かなかったりということは珍しくありません。
効果が現れるのはどんなクライエント?
小学生で勉強することの楽しさを知った私は、その後の人生では宿題の「やらされ感」に抵抗が出てきて、基本的には宿題を出すのも、出されるのも好きではありません。
でも、宿題の捉え方が変わったのは、クライエントさんの変化を見るようになったからです。
数ある心理療法の中には、クライエントに宿題に取り組んでもらうのがセットになっているものがあります。
たとえば認知行動療法のように、自分の考え方のクセを知って、適応的な考え方を身につけていく方法だと、宿題をどれだけして日常生活に応用するかが大事になってきます。
なので私の好き嫌いに関係なく、クライエントさんに宿題に取り組んでもらうのです。
すると何が起きるかというと、熱心に宿題に取り組むクライエントさんは少しずつ物事の捉え方が変わったり、症状が軽くなったりして生活しやすくなるのです。
これは当たり前と言えば、当たり前。
ピアノのレッスンを受けたあと、学んだことを家でも練習すれば、熱心に練習する人の方がしない人よりもうまく弾けるようになりますよね。
これと同じことがどうもカウンセリングにも当てはまるんですね。
こうして私は「宿題はしないより、した方がいい」という結論に行き着きました。
「宿題」は出せばいいってものじゃない?!
「聞いてくれるだけで、何もアドバイスをくれない」
これはカウンセリングに関するよくある不満の一つ。
裏を返せば、クライエントさんは「こんなことをしてみたら、不安が減りますよ」とか、何かしら対処法や方向性がほしいということ。
かといって宿題を無理強いするのは気が引けるし、でもやっぱり宿題は取り組んでもらう方が改善するし、どうしたものかと迷うのです。
そこで、「宿題」という言葉を使わないで、「取り組み」という枠組みで提案するようにしました。
クライエントさんの困りごとに対して、「どんなことだったら、無理しないでできそうか?」と一緒に探求したり、「なぜその取り組みが役立ちそうなのか?」など説明したりして、提案させていただくのです。
過呼吸のクライエントの場合
たとえば、不安が高くなると過呼吸になる人の場合。
過呼吸は人に気を使いすぎて自分のペースで生きられなくて、生きづらさが呼吸にまで影響している状態とも言えます。
本来なら「息をしよう」とかいちいち考えなくても、身体は勝手に呼吸してくれます。
それが過呼吸になると、意識しなくていいものを意識せざるを得なくなり、自分が呼吸にコントロールされてしまうのです。
ポイントは、自分で自分の息をコントロールできるようになること。
こんなことを説明しながら、
「一日の中で、『フッ』とひと息つけるのは、どんなときですか?」と尋ねてみます。
すると、
「仕事が終わって帰りの車に乗った時」など答えが返ってきます。
そして、
「それを意識的にやってみて、自分が呼吸をコントロールする側になってみませんか?」と提案します。
さらに、
一緒に「フッ」とひと息ついてみて、どんな感覚がするのか体験してもらいます。
「頭の中に少しだけ余白ができる感じがします」など、クライエントさんは自分の感覚に気付いていくのです。
こんなふうに、クライエントさんに「取り組み」を提案して、日常生活でも実践してもらうように促すのです。
「取り組み」を効果的にするための3つのヒント
カウンセリングを効果的にするためには、他にもできることがあります。
ここでは陥りやすい失敗を防ぐためのヒントを3つ見てみましょう。
「面倒くさいなぁ」という声
カウンセリングで提案された時は、「はい、やってみます!」とやる気があったのに、いざ日常に戻ると「面倒くさいなぁ」と思ってしまう。
そう思うのは、いたって自然なことなんです。
昨日までやっていなかったことを生活に取り入れることは、脳にとっては「ノイズ」と判別される可能性が大。
だから「面倒くさいなぁ」と思ったら、そう思った自分をまず認めましょう。
「面倒くさいって思ってるんだなぁ」って。
「変わりたいのに、変わりたくない」自分
このままで人生を終わらせるのが嫌だから、カウンセリングを受けることにしたのに、変わることに抵抗している自分に気付いた・・・
もしかしたら大事な何かを手放すことが怖くて、変わることへの抵抗が起きているのかもしれません。
たとえば、「大変な境遇を歩いてきた自分だから、周りの人が優しく接してくれている」と思っていたら、問題が解決することは周りからの優しさを失うことを意味する。
抵抗は内なる声として、不安や怖い気持ちを伝えようとします。
そんなときは自分に聞いてみてください。
「一番恐れているものって何だろう?」って。
「これって、本当に役に立つの?」と疑ってしまう
提案された「取り組み」をやってみたけど、「こんなので、役に立つの?」とつい疑ってしまう。
確かにダイエットや筋トレのように、目に見えるような形で効果は現れません。
「取り組み」はラジオ体操のようなもの。
毎日2,3分運動をしたからって、体重が減ったり、筋肉がつくわけではない。
でも、何かにつまずいて転びそうになったとき、とっさに「パッ」と身体のバランスがとれると転ばずにすみますよね。
日々のラジオ体操の成果はこんな場面で現れたりするのです。
過呼吸の人だったら、「フッ」とひと息つくことを定期的に実践するからこそ、不安な場面に遭遇した時でも圧倒されないで呼吸ができる。
危機的状況は作ろうと思って作れるわけではないけど、こんな場面で効果が発揮されるということを知っておきましょう。
宿題以上に大切なこと
「取り組み」という名の宿題は、しなくてすむならしたくない。
でも、取り組んだら効果はあるから、やっぱりした方がいい。
「勉強はやらされて身につくものではない」と考えていた担任の先生は、「宿題」ではなく「自主学習」という名で私たち子どもの自主性を引き出していました。
自主学習をしてきたらノートに◎をくれたり、学級だよりに名前を載せてくれたりして、いろんな工夫が施されていました。
こんな小さなごほうびの積み重ねが、子どもにとってはやる気の原動力でした。
ただ思うのです。
それは手段にすぎなくて、先生が本当にしていたことは一人ひとりが持っている可能性を見いだして、信じつづけることだったんだなと。
「言われなくても勉強する子ども」に私がなれたのも、誰よりも信じてくれる先生の存在があったからこそなんですね。
まとめ
当時の学級だよりを読み返すと、子どもたちの可能性を信じていた先生の思いがありありと伝わってきます。
あの頃は先生の偉大さに気付いていなかったけれど、「信じてくれる存在」を皮膚感覚として感じ取っていたと思うのです。
その証拠に、卒業して数十年経った今も、セピア色になった学級だよりは手元にあるのです。
先生がしてくれたように、クライエントさんの「よりよくなりたい」という思いを引き出したいから、これからも私は「取り組み」という名の宿題を出していくと思います。