上田富美子(うえだふみこ) 熊本在住

臨床心理士
公認心理師
SEP (ソマティック・エクスペリエンス® プラクティショナー)

カナダブリティッシュコロンビア大学心理学科卒業
熊本大学大学院教育学研究科臨床心理学分野修了

落ちこぼれのカナダ留学時代

海外に憧れていた19歳のとき、3週間のロサンゼルスでのホームステイがきっかけで私の人生は大きく変わりました。見るものすべてが珍しく「世の中にはこんな世界があるんだ」と驚きの毎日。帰国後「いつか留学したい」との思いを胸に、旅行代理店で働きながら留学資金を貯めること5年。24歳で単身カナダのバンクーバーにわたって、中学生レベルから英語を学び直して「分かることの楽しさ」を人生ではじめて体験しました。

最初は1,2年のつもりで留学しましたが、私のように英語が母国語ではない留学生がどんどん現地の大学に進学する姿を見ているうちに、「私にもできるかも」と思うようになって大学に行くことを目指しました。

高校生の頃から学校の勉強はそっちのけで遠藤周作氏の小説やエッセイの世界に没頭し、作品を通じて「人の心」に深く興味を持つようになっていた私。大学では心理学を専攻したものの、ここから英語との戦いがはじまりました。

大学の授業は、英語ができるという前提で進んでいく。分からない単語を一つ一つ辞書で調べながら、教科書1ページを読み終えるのに1時間もかかってしまう。100ページ以上あるテスト範囲を読み終えることができないままテストの日がきてしまい、心理学を学ぶ以前に英語でつまずいていました。

「なんでわざわざ心理学を英語で学んでいるんだろう?」の言葉が浮かぶ・・・。自分のしていることの意味が分からなくなっていく・・・。通りすがりの赤ちゃんを見ると「あと10年もすれば、この子の方が私より英語がうまくしゃべれるようになるんだろうな」と思わずにはいられない。こんな日々の連続で抑うつ状態に陥ることもありました。

4年で終わるところを6年かけてようやく卒業。大学院に進学する友だちを「いいなぁ」と思いながらも、「これ以上勉強したら、私は頭がおかしくなる」と変な確信があって8年間の留学生活にピリオド。このときの私は、将来心理士として働いている自分の姿を想像できませんでした。

派遣社員から心理士になるまで

帰国後の最初の仕事は派遣の翻訳業。しだいに「心理学を仕事にしたい」との思いがふつふつと湧きあがってきました。電話相談のボランティアからはじめて、心理学で食べていける状態になったのは約一年後。児童心理治療施設、児童相談所、精神科病院、大学の学生相談などの経験を経て、現在はフリーランスとして活動できるまでになりました。なぜ、心理士が私のライフワークになったのでしょうか?

それは、たくさんの人たちに支えてもらったからです。「遠くの親戚より近くの他人」という言葉がありますが、留学時代は周りの人たちの支えがなかったら本当生きていけなかったと思います。外国人に対して寛容な文化と土壌があるカナダの風土も私にはとてもありがたいものでした。カナダでは自分が持っている以上の力を引き出してもらい、「生きている限り、なんとかなる」という感覚が培われました。

帰国後は資格も経験もなかった私に仕事を紹介してくださった方や臨床心理士になるための手立てや方法を教えてくれた人たちのおかげで今の私があります。このような体験を通じて「人は支えられることで苦難も乗り越えられる」と思うようになりました。

ただ、実際の仕事の場面では行き詰ることも多々ありました。カウンセリングを何回重ねてもなかなか改善が見られない人。「ここで話すと余計きつくなる」と言って来なくなってしまう人。話すこと自体が苦しそうな人。「これだったらうまくいくんじゃないか?」と思って、いろんな研修に行ったり、関連書籍を買って勉強するものの、突破口が見つからない。

「自分のできなさ」という質の不足を、量で埋めようとしてクライエントさんの要望に必要以上にこたえて自己犠牲的になってしまう。人をサポートするはずの私が、サポートする余裕がなくなっていく。無力感が蓄積していって、この仕事をずっと続けている自分がイメージできなくなっていました。

身体的アプローチとの出会い

今、私はこの仕事をできる限り長く続けたいと思っています。カウンセリングのあり方を何年も模索するなかで、身体的アプローチによってクライエントさんが「自然体で生きること」をサポートできると分かったからです。

身体的アプローチでは、従来の言語的カウンセリングとは違い、身体の感覚や表情など非言語的な要素に注目していきますが、このアプローチに出会う前の私は、つらい過去の体験や思い出すだけでも苦しくなるような話をクライエントさんに話させすぎていました。

過去のことを話すだけでは改善するのは難しいのです。その人が持っている強みや資源を一緒にさがして、本来そなわっている自己回復力を引き出すことができれば、望む未来へと歩きはじめることができるのです。

生きることに苦痛しか感じなかった人、好きなことをしているときでも罪悪感しか感じなかった人、人の役に立てなければ生きる価値がないと思っていた人・・・そんなクライエントさんたちが誰かの人生ではなく、自分の人生に興味を持ちはじめる。「なりたい自分」へと変わっていくクライエントさんの姿と出会えることが心理士としての私の醍醐味であり、この仕事を続けていく原動力となっています。

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